音楽の都ウィーン。
ある広場で爆弾事件が発生した。
建物は爆発する。
駆けつけた警察は広場へ犯人を追う。
やっと犯人を建物の屋外へと追い詰めたブルー・リヒャルト・モーザーであったが
犯人は銃を持っていたのだ。
建物の屋外で何とか犯人と交渉するのだが・・・
逃げられない犯人はブルーに向けて発砲した。
ブルーは自分が撃たれたかと目を開けてみるが
撃たれたのは自分の妹で鑑識班のフィシスである。
ブルーは犯人を捕らえると他の刑事に託し倒れている妹を抱きしめた。
「フィシス!!!」
「お兄様・・・」
「どうして君が・・」
「良かった・・・・・お兄様が無事で・・・」
「喋るなフィシス・・・こんなにひどい怪我をして・・・」
泣きながらもブルーはフィシスを抱えて何としても連れて
行こうとするのだが・・
「お兄様、勤務中です。私よりも早く行ってください・・・」
犯人が残した爆弾を回収するために妹をその場に置いていったのだ。
それが妹との最後の別れである。
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数日後。
モーザー警部の幼馴染で警察犬訓練士キースは
殺人課の様子を見て愕然とした。
いつもならばデスクに座っているはずの警部の姿が其処にはいない。
「まだ落ち込んでいるのか?」
「はい、それが・・・・」
振り返り様で応えたのは同じ殺人課の刑事でリオ。
リオは警部補でもある。
その横で呆れた顔をするトォニィが呟く。
「仕方ないだろう?だってさ・・・妹を亡くしたんだ」
「・・・分かっているがそんな事で根を上げていたら殺人課はどうなる?
感情に流されていたら警察やってられるか・・・」
「そんな事を言うために来たのですか?キース・・・」
少し不快な顔をするリオだったがキースは改めて話をする。
「少しは言い過ぎた・・・・だがな、警察の人間である限り、
これからも誰かが死ぬのに遭遇する。
泣いてばかりはいられないのも現状だ。
俺だって泣きたい気分だよ」
そう言って側にいた犬を呼ぶ。
警察犬の中でも優秀なジャーマン・シェパード・ドッグ。
名をレックスと言う。
「レックス・・・来い」
「ワン!」
「よしよし、お前に頼みたい事がある」
「クーン・・・・?」
首をかしげるレックスと言う犬が何とも可愛いもの。
「それが・・・レックスですか?」
「そうだ・・・」
リオの言葉で頷いたキースはレックスを撫でる。
「レックス・・・・お前の出番だな。あいつを慰めるぞ・・・」
「ワン!!」
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人里離れた霊園
一つの墓石の前で佇んでいる一人の若者がいる。
「フィシス・・・・」
そう呟いただけで何も言わない。
そんな若者の後姿を見て哀れに思うキース。
「・・・・ブルー・・・」
ブルー、そんなお前を見てられないな・・・・
お前には話せないことがある。
フィシスは俺にとっても妹のような子だった。
俺はお前に嘘をついた。
今は言えないがいずれは言うつもりだ。
「クーン・・・・」
「ん?どうした・・・・・レックス」
「ウウ・・ウ・・・」
「そうか、行ってくれるのか?」
「ワウ・・・・」
キースの側からブルーの近くへ歩いていくレックス。
「ク・・・ン・・・・」
「・・・・・・・・」
「ク・・・ン・・・・」
動こうとしないブルーに首を傾げた。
「ク・・・ン・・・ク・・ン・・・・」
あまりにも反応がないので服の裾を咥えて引っ張る。
「・・・・離してくれ・・・」
やっと声を出したブルーではあるが誰とも喋りたくない。
「ク・・・ン・・・・」
コートをしつこく引っ張るレックスに困惑するのだ。
「止めてくれ・・・・レックス・・・」
「ク・・・ン・・・ク・・ン・・・・」
「ごめん・・・今は誰とも話したくない・・・」
「ク・・・ン・・・クーン・・・・」
その場から去ろうとしないレックスに根負けした。
「レックス・・・どうして構う?」
「ク・・・ン・・・ク・・ン・・・・」
僕を何処かへ連れて行きたいのだろうか・・・・・
塞ぎ気味のブルーを何とか引っ張っても離れようとしないレックス。
仕方がないのでブルーは付き合うことにした。
「何処へ行く?レックス・・・・・」
「ワウ!」
裾を引っ張られ駐車場へ連れて行かれる。
「分かったから・・・」
自分が運転してきた車の前に来ていたのだ。
「どうして・・・僕のだって知ってるんだ?」
レックスを乗せたことはなかったのに・・・
何故かレックスは知っていた。
「驚いたなぁ・・・・レックス」
「ワン!!」
何故かレックスの笑顔をみた気がした。
「レックス・・・済まない・・・・」
いつの間にかキースが来ていたのだ。
「ブルー、レックスを頼むぞ」
「え・・・キース、そんな事をしては駄目だろう?
警察犬を職権乱用に使うなんて・・」
「構うか、これはお前の犬だぞ・・・・」
「え?」
「俺ができることをしたまでだ!それになあ、レックスはもう警察犬ではないぞ」
「・・・相変わらず強引だね。キース・・・・」
「あなたの妹は生きています。ブルー・・・・・・」
「何か・・・・言ったのか?キース・・」
「いや、俺は何も言っていないが・・・・・」
「先のは何だろう・・・・?」
「ワン!!」
ブルーの前で首を傾げるレックスだった。
「レックス、よろしく頼んだよ」
「ワウ!!」
何だかレックスに慰めてもらったみたいだね。
でも・・・・・あの声の主が誰だか知らないけど
僕はあの声を信じる。
妹が生きていることに・・・・・・
これから始まるレックスとの生活。
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2010/06/26UP